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最高裁判所第一小法廷 昭和47年(オ)411号 判決

主文

理由

上告代理人梅沢秀次、同安田秀士の上告理由第一点について。

原審の適法に確定したところによれば、本件約束手形は、上告人と被上告人との間の利息付金銭消費貸借を原因関係として、被上告人が上告人に宛て振出したものであり、右振出当時、上告人、被上告人の代表取締役はいずれも訴外長棟至元であつたというのである。右事実関係のもとにおいては、被上告人がした右振出は商法二六五条にいう取引に当たるものというべきであり(最高裁昭和四二年(オ)第一四六四号同四六年一〇月一三日大法廷判決・民集二五巻七号九〇〇頁参照)、これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。

同上告理由第二点について。

所論の点に関する認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。)挙示の証拠関係に照らして是認することができる。右認定判断の過程に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官藤林益三の意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

裁判官藤林益三の意見は、次のとおりである。

原判決によれば、原審は、被上告人がした本件約束手形の振出およびその原因関係である上告人と被上告人との間の利息付金銭消費貸借は被上告人取締役会の承認がないからいずれも無効であることを理由として、上告人の本件約束手形金請求を排斥したことが明らかである。

ところで、約束手形の振出は、取引の決済または信用授受などの原因関係の手段としてなされる行為であり、それ自体としては、取締役個人またはその代理する第三者に新たな利益を与え、会社に新たな不利益をもたらす行為とはいえず、したがつて、約束手形の振出は、金銭の支払と同様、商法二六五条にいう取引に包含されるべきものではないと解される。その理由の詳細は、多数意見が引用する大法廷判決における私の意見と同様であるからそれを引用する。

しかし、本件約束手形の振出が有効だとしても、被上告人取締役会の承認を受けなかつた本件金銭消費貸借は無効であり、被上告人は、受取人である上告人に対しては、右原因関係の無効を理由に約束手形金の支払を拒むことができるから、上告人の請求を排斥した原審の判断はその結論において正当である。所論は、原審の判断の結論に影響のない部分を論難するものであつて、採用することができない。

(裁判長裁判官 下田武三 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 岸 盛一 裁判官 岸上康夫)

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